話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選

初参加です。

 

個人的に見どころを感じて、なおかつ今年どんなアニメがあったか振り返ったときに概観できるようなものを意識して選びました。

『PUI PUI モルカー』 第8話 モルミッション

パペットならはのかわいらしさとじんわり人間の闇を感じさせるストーリー、ストップモーションとは思えないダイナミックなカメラワーク。モルカーからさかのぼって知ったのですが、これらの特徴は監督の前作『マイリトルゴート』にもすでに現れていました。ただマイリトルゴートの方ではもっと暗黒フェアリーテールといった感じで、もっとアート志向な個人作家という感じでしたが、『モルカー』は明るくエンタメな装いに加えてオタクな側面も出ていると思います。

際立っていたのが8話、ミッション・インポッシブル、サメ映画、AKIRAといった映画のパロディが満載で、前作と並べると監督の作風のレンジを見るのいいなと思ったのでこの話をピックアップしました。

 

『ウマ娘 プリティーダービー season2』 第2話 譲れないから!

season2をきっかけにソシャゲデビューし競馬もはじめ今では友達とPOGをやるなど趣味の作品を広げてくれた、自分にとって大きな作品になりました(イクイノックスの来年のダービーに期待)

はまるきっかけになったのが第2話。この回がシリーズ全体のドラマのテンションを決定づけたといっていいと思います。主人公不在の菊花賞レース、脇役から名前すら与えられていないモブウマ娘に至るまで一人ひとりが勝利を渇望し全身全霊でレースに挑んでいるということを知らしめました。当時まだ個体識別もできてなかったモブの一人だったネイチャが「テイオーが出ていたらなんて絶ッ対に言わせない!!」と走るすがたは、その演技も相まって目頭が熱くなりました。

ウマ娘は史実をどう脚色あるいは改変するかがミソなコンテンツでしょうが、その点でも2話はターボ師匠のオールカマー回と並ぶ優れた脚色だったと思います。

 

『ワンダーエッグ・プライオリティ』 第11話 おとなのこども

ファンタジスタドール・イヴという小説をご存知でしょうか。ハヤカワ2014年に放送されていたアニメ・ファンタジスタドールのノベライズで、アニメ本編の前日譚にあたります。

文体や構成は人間失格オマージュで、ある種脳天気な本編とは対象的。ストーリーは、科学者の男が幼少期から抱えてた女性への執着をこじらせた結果、同じくこじらせてる同僚の男と理想の女性<ファンタジスタドール>を開発するまでにいたるというもの。(そしてファンタジスタドール第一号であるイヴはエピローグで逃げ出す)

なんとワンエグの11話はファンタジスタドール・イヴとそっくりなんですね。この類似からワンエグにひとつの視座を得られた気がします。イヴを読むと女性の身体への執着、少女のイノセンスへの憧れが実際にはミソジニーの裏返しであるということがわかるんですが、ワンエグ11話の裏にあるのはそういうことなのかな、と。

自分は野島伸司のドラマを網羅的に見てるわけではないですし、視聴した記憶もはっきりしてるわけではないのですが、聞くところによると野島氏が90年代ごろによく書いてたのは男の側の視点で、ワンエグ11話にはそういった要素が詰め込まれているようです。逆に言うと過去のモチーフを一話に畳み込んで少女の側の視点を大きく展開したことがこの作品の美点なのかも、と思いました。

また個人的には、ややマイナーなアニメのややマイナーなお気に入りのノベライズが大きなコンテクストの中に位置づけできた感じがしてよかったです。

 

『スーパーカブ』第1話 ないないの女の子

原作はイラストレーターガチャでSSRを引き、アニメ化に際してはスタッフガチャでSSRを引いた。4話くらいまではおもしろかったけど、その後は原作のほうが息切れしたのか変な方向に行ってしまったような……。

この作品に限らずなんですけど、スーパーカブが出てくる話が昔から好きです。漫画だと『ヨコハマ買い出し紀行』、ライトノベルでは『旅に出よう 滅びゆく世界の果てまで』、あと水曜どうでしょうのカブの旅など。(前の2つだといわゆるcosy catastrophe(心地よい破滅)とよばれるカテゴリーなので、個人的には『少女終末旅行』のケッテンクラートも同じくくりになるかも)

思うに車や自転車といった乗り物は、乗り手の自意識の表現みたいな側面がある気がします。かつて「男はいい車に乗るのがステータス」的な価値観がありましたよね。今もあるのかもしれませんが。一方自転車は、そういった価値観とは距離をとりますよという感じの、「あえて自転車」みたいなところがあるのではないかと思います。例えばキッズリターンのラストが自転車なのもそういったスタンスというか感覚のあたわれではないかと。

対して移動性能的に2つの中間にあるスーパーカブは、乗り手の自意識とは切り離されて、純粋にモビリティが人が触れることのできる世界を広げてくれることを象徴してるように思います。スーパーカブの1話は、そういったスーパーカブの性質が純度高く描かれていると思いました。

 

『ミュークルドリーミー』第41話 バレンタイン和菓子配っちゃお!

気の狂った話をつくるサンリオアニメの、気の狂っていた回。

モテない男たちの怨嗟が集合して世界中で暴動が起きる、しかも怨嗟が現実を侵食してバレンタインという概念自体が消えかけるという、シリーズ最大のカタストロフが発生します。

いつもなら気の触れちゃった人の意識に入り込んで悪夢を退治するというパターンなのですが、なんと今回はそれができません。そこで男の子の朝陽くんが女装して街中のモテない男たちに和菓子を配ることで怨嗟をはらし解決するという怒涛の展開。クライマックスはなんか作画もいい。濃密な24分。これを見たキッズたちはいったいどんな大人になるんでしょうか。

『オッドタクシー』第12話 たりないふたり

脚本の此元和津也さんは漫画家で、実写映画の脚本なんかもやったことあるようですがTVアニメの脚本ははじめてのこと。制作会社のP.I.C.Sも、CMを作ったりしてる会社でテレビアニメ制作は門外漢だったようです。業界外の人がチャレンジしたTVアニメということでたいへん個性的な作品になっていました。

たくさんのキャラを並行で動かしながつつひつの話に収束していく、伏線回収のたくみな話なので、きれいにパズルが組み上がる最終話を選んでも良かったのですが、

関口の『矢野さん!踏めてません!韻!韻が踏めてないです!』に爆笑したので12話を選出します。瞬間風速なら年間通してこのシーンがナンバーワン。

『ゴジラS.P』第8話 まぼろしのすがた

かつてイブニングでSF作家たちに短編を書かせてそれを漫画化しようという企画がありました。結局漫画化されたのは一作だけだったのですが、そのときに書かれたSF短編たちはVisionsという本にまとめられています。

円城塔氏もその企画に参加していたのですが、ブロックチェーンの原理をたとえ話で説明するという「どう漫画化しろと?」「企画意図理解してますか」と聞き返したくなるような作品。そんなことがあったのでゴジラの脚本をやると知ったときは不安の方が大きかったのですが、蓋を開けてみたらちゃんと面白くてうれしい裏切り。

制作過程としてはおそらく、方向性を大まかに合わせた後、円城さんがアイディアをいっぱい広げて監督が”剪定”していくという手順だったのだと想像します。というのも、発展しそうなアイディアやSFテーマがけっこう未回収のままに転がっている気がするからです。

最終話はちょっと特撮ファンのノスタルジーに後退しちゃったかなあという印象なのですが、中盤での情報量のインフレはすさまじく、今後どうなってしまうのか毎話ワクワクしていました。特に情報量とスケールがピークに達するのが8話で、「特異点=宇宙のネットワークが競合を起こしやがて破局をむかえる」という予想が提示されます。このへんのハッタリは終盤映像で十分に回収されたとは思えないのですが、1エピソード選ぶ分にはかまわないでしょう。

 

『ラブライブ!スーパースター!!』第2話 スクールアイドル禁止!?

第一話で中国人留学生(可可ちゃん)が出てきて、中国市場をめくばせしてるのかなと思いました(twitter上では”ラブライブ新作の中国人キャラは超限戦の一環”なんていう陰謀論も見ました)……しかしこの可可ちゃん、2話で一転反体制活動を展開します。これにはド肝抜かされました。アナーキーだ。

これ以降すべての展開が政治的アレゴリーに見えます。第2話で権威主義に対抗し、生徒会選挙では買収と公約違反の描写を通して公正な選挙について考えさせ、すみれのセンターをめぐる問答でポピュリズムを否定し、最終話Song for allで民主主義の理念を高らかに歌い上げる……まあ半分は冗談です。

可可ちゃんは実家が太そうですけど、中国で経済的にる程度成功するにはたぶん中共とある程度懇意にしてないといけないと思うんですよね。そんな親を見て疑問を持ち、そして自分だけの偶像=スクールアイドルに出会った……そう考えると可可ちゃんというキャラクターがとても立体的になる気がします。半分本気なのはその方がキャラが立つからです。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第29話 甦る伝説! プリキュアおめかしアップ!

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マイベスト2019年映画は『スタートゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』なんですが、この作品が自分にとって特別なものになったのは、プロデューサーの村瀬亜季さんの貢献が大きいと思っています。この映画に興味を持ったきっかけがいつもと違う雰囲気の映画ポスターだったのですが、後で村瀬Pの強い意向でこうなったと知りました。

しかして映画はこのポスターのイメージを裏切ることのない傑作。今でも残ってるホームページにはこのような紹介文があります。

「夜空をかける”流れ星”のようなロマンチックな映画」を目指し、キラキラで夢たときめきがいっぱいだけど、ほんのちょっぴり切ない物語になっています。

村瀬Pは制作中譫言のようにロマンチック…ロマンチック…と言っていたそうですが、できあがった作品と比べてみると、その方向性からプロモーションまで明確なビジョンを持ち適確にコントロールされていたのがうかがえます。「ポスターに騙された」なんてことがザラにある中でこれだけでも偉大では。

いつか村瀬PのTVシリーズやらないかなと期待していたら、トロプリで意外と早く実現しました。スタプリ映画とはやや違って底抜けに明るいシリーズですが、29話は演出田中裕太回で、スタプリ映画のロマンチックさや叙情性もかもしていてよかったです。作画監督森佳祐さんはこれが作監デビューということでご祝儀的に腕利きのアニメーターが集結。アクション作画がバリバリよかったし、背景動画の楽しいシーンもあったりして、全体的にクオリティが高かったです。

 

『小林さんちのメイドラゴンS』第10話 カンナの夏休み(二か国語放送です!?)

純然たる日常アニメという趣……だけど、ナラティブ以外のところにメッセージが込められている気がしました。

この回が放送されたのが9月9日。自分が配信で見たのがちょうど9月11日で、その時期報道では9.11テロから20年目の節目としてそこここで特集が組まれていたのも相まって印象に残っています。

京アニらしい丁寧なアニメートで描かれるマンハッタンの日常風景はしかし、20年という決して短くない時間をかけて取り戻したもののはずです。災禍を超えて日常は取り戻される。10年20年たったとき、わたしたちはこの回をどのようにふりかえるでしょうか。