2022年の印象に残った作品など
今年印象に残ったもの振り返り
映画
カイロレン以来のアダム・ドライバー好きなので見た映画。冒頭自転車通勤から始まり原付き、オートバイ、カウンタックときて最期に自転車に戻る、乗り物で立場の移り変わりが表現されてるのがよかった。アダム・ドライバーには自転車が似合う。
今年は過去の名作のデジタルリマスターが映画館で上映されることが多かった。パリ、テキサスもそのひとつ。親しくさせてもらってる知人が、この映画がかねてより良いと行ってたので見に行った。まず画面の美しさが目を引く。高地の家から見る夜景の明かりや、早朝の薄緑がかった空気など、どのシーンも色が綺麗。子どもの視点からは母を探しに行くロードムービーでもあり、ストーリー面も良かった。
イマジナリーフレンドのキティに向けて書かれたアンネの日記、その日記からキティが現代に実体化し、アンネを探しに行くが……というあらすじ。企画の時点で価値が約束された、アニメならではのファンタジー。原題はwhere is anne frankだが、アンネフランクを探しに行くプロットとアンネフランクのメッセージは原題に継承されているのかというダブルミーニングを表していてる。
空中で木の葉のように舞う第5世代戦闘機を骨董品のロマン兵器F-14で倒すのが圧巻。この映画の人気を支えてるのは”老害化を免除されたい”という願望なんだろうけど、それが現実でできるのはトムクルーズだけなんよ。
軍事革命で呉越同舟の北朝鮮大使館員と韓国大使館員がしょうがなく協力して国外脱出しようとする話。カーアクションシーンがマッドマックスみたいな迫力。
キャラクターたちが社会人と聞いてやられたと思った。アニメを見てる層(わたし)の高齢化してるし、社会全体も高齢化している。小学校は廃校になるし、しまりんはうっすらブラック労働。全体が沈降していく日本社会で、それでも下の世代に何を渡せるのか。縄文土器、捨てられた学校のタイヤ、ペッパーくんという孫正義の失敗したプロジェクトなど、廃れたものに別の意味を与えて復活させる。今日的なテーマだなと思った。
今ではSF大作請負人になったドゥニ・ヴィルヌーヴの出世作。これもデジタルリマスターでリバイバル上映したもの。予想の上を行く地獄のような展開にめまいがする。
怪獣映画としての満足度が高かった。映画の期限のエピソードや反射物に映るもの、途中で挿入されるコメディ番組などメタファーが一いっぱい。
和製ブリグズビー・ベアというったかんじ。多幸感あふれるいい映画だったけど尺がちょっと長めに感じた。
今年見た映画では一番良かった。親と子は決して対等な関係にはなれない。そういう社会の中でわたしたちは生きているけれど、もしも友達のようになれたらという反実仮想のファンタジー。ふたりでクレープ作る様子が本当に楽しそうで、ああこんなふうになれたらとつい思ってしまう。
先行上映会に当選するという稀有な体験ができた。初見のときはおもしろかったなーと思ったけど、時間がたつに連れていろいろとマイナスの点に目が行くようになった。ファスト映画消費に適応した高速シナリオ展開はクライマックスのシーンの説得力を損なわせてるのではないか。
実際のバスケットの試合のような試合の(準)リアルタイム進行。バスケ試合描写の技術的達成はすごく大きい。今後はこの水準がスタンダードになるんだろうか?
アニメシリーズ
去年は年末ブログ企画?の「各話単位で選ぶTVアニメ十選」に参加したけど今年はそんなたくさん選べなそうなのでここでいくつか上げる程度に留める
ワンピース 1015話
フィルムレッドきっかけでワンピ周りのものをいろいろ接種した成果。ワンピアニメは最近のメディアミックスアニメと違って休みなくずっとやってるのでストーリー進行は遅くかなりダルいんですけど、ワノ国編に関しては作画はかなりいい。特に演出含め際立っているのが、原作1000話にあたるアニメ1015話。演出の石谷恵さんはまだ若い人らしく、今後が楽しみ。
ヤマノススメ Next Summit 9話
以前クロッキー会で会った若手アニメーターの人に「アニメーターの中でもクロッキーの描き方の流行とかあるんですか?」と聞いたら「ありますね。みんなゆーせーさんの描き方をまねしてます」と言っていた。その河本有聖さんがBパートで作監をやっている。これが「流行りのアニメ絵かー」ということで勉強になりました。
チェンソーマン 8話~
正直言うとチェンソーマンのアニメにはいろいろと不満はあるんですが、8話以降は演出方針がようやく噛み合ったなと思えた。ただやっぱり映画的な方に寄せた分失われた漫画的な要素は大きい。音楽には詳しくないけれど、最近のアニメの音楽タイアップはシーンの中心の人を連れてくることが多い気がする。
サイバーパンク エッジランナーズ
トリガー作品で好きになれるのがようやく現れた。最近のTVアニメでは減ってしまったピカレスクロマンと、プロメアからのクールなビジュアル。
ぼっち・ざ・ろっく!
思い返すと異世界転生も日常系も乗っかれなかった自分は結局ビルディングスロマンを求めていたんだと改めて思わされる。京アニが好きになったのもユーフォ以降だし。
コメディ演出の手数の多さが楽しい作品だったが、邦ロックに対して大して興味が無いのと「陰キャならシューゲイザーをやれ!」の思いが強すぎて完全には乗っかりきれなかったところもある。シューゲイザーどまんなかな曲やってくれたらあっさり手のひらを返します。
最終回放送直後に公開された本PVなるものが本編とはちょっとちがって寂しさの漂う映像で、これを見てちょっと愕然とした。青春なるもののキラキラしたイメージって所詮大人のノスタルジーのフィルターを通したもので、リアルタイムではバカみたいな日常の出来事の連なりなのが実際のところ。そんな構造が、毎週見てきた視聴者へのご褒美として提示されるようなPVだった。
正確には本編中でも楽曲の歌詞世界では、失われた時間を未来から振り返るという視座が反復されているんだけども。アニメは原作の先の展開をフィードバックさせてるところがあるらしいので、歌詞だけは未来先取りな感じになってる。
ドラマシリーズ
ワンダヴィション
いっときNetflixからDisny+に浮気して見たドラマ。正直MCUフェーズ4の映画はどれも退屈だったけれど、ドラマシリーズの方はかなりおもしろかった。最初は奥様は魔女のような白黒のシットコムから始まり途中でカラーに…というようにドラマ史を一つのシリーズで駆け抜けるような作品。ところどころにあらわれる違和感が後半で大きな仕掛けに回収されるなど見どころ多かった。
ファルコン&ウィンター・ソルジャー
キャプテン・アメリカにあった緊張感あるポリティカルフィクションの要素を継承したのがこちらのシリーズ。サノスによって世界中が生存組と復活組で分断されるという世界中がパレスチナみたいになってるシビアな設定。そんな世界でヒーローというアイコンはどのように機能してしまうのかを検証していく。ラストのファルコンのセリフは暗記できそうなくらい見返した。
問題はその決定を誰と行っているか。その力の影響を受ける人々? それともあなたのお仲間か? あなた方の力は絶大だ、イカれた神か、あるいは怒れる若者同様の。よく自問してほしい。”力をどう使うか”
鎌倉殿の13人
ジャンル不問で今年一番面白かった作品。通年のシリーズを大きく2つに分けると、前半は源平合戦から頼朝の死までで、後半は御家人達による権力闘争。前半では豪族たちをつぎつぎ仲間に引き入れて平家打倒を達成するが、後半は言ってみれば前半で集めた仲間たち同士でデスゲームが行われる。魅力的なキャラたちが何かと難癖つけられて謀反の疑いをふっかけ粛清するという流れが毎週のように繰り返される、どころか甥っ子にあたる二代目鎌倉殿にも手をかけ親だろうと追放する徹底ぶり。前半では純朴だった小四郎が後半デスゲームに巻き込まれる中でどんどん闇落ちしていく。すべての因果が集約して最期を迎えるラストは圧巻。一年間並走してよかった。
エルピス
鎌倉殿でドラマ見る体力がついてきたので秋クールは話題作を一本見てみてました。今はTVerがあるので予約無しでリアタイしなくてもどろーできるので大分楽な世の中になりました。マイベスト漫画に新井英樹の『キーチ!!』があるんですが、キーチの小学生編をエルピスで連想しました。どちらもプチエンジェル事件を参照してると思われるところがあり、マスメディアを舞台に国家権力にゲリラ戦するところも似てるんですが、すとーりーだけでなくメッセージ性やキャラクターも似てるなと思うところがありました。村井さんとかそのまんま新井英樹の漫画に出てそうな感じがする。
全話見た印象個人的にはやっぱりキーチのほうが面白いんですが、日本では政治状況を批判的に検証するエンタメが全然ないので、こういう作品は継続的に出てきてほしいなと思います。
漫画
漫画は去年から継続して読んでるものが多いので今年新たな出会いみたいのは少ないんですが、以下で取り上げているものが印象的でした。あとはるりドラゴンとかかな。
ぷにるはかわいいスライム
女児向けアニメを愛好するような大人には刺さる漫画。同居するマスコットキャラとしてはドラえもんとかの児童漫画の系譜にありながらラブコメというそこからはみ出すでもあるので、週刊コロコロコミック
恋するワンピース
フィルムレッドがきっかけで無料公開のワンピース漫画読んだりアニメ配信でワノ国編見たりしてるうちに公式スピンオフ(?)漫画まで手を出した。嘘風のブレーキの壊れた狂人ぷりにかなり笑わせてもらった。ワンピースと並行して読んでたのもあり、本編の方で蟹手のジャイロが登場したときは感慨深かった。
宝石の国 12巻
アフタヌーンで連載再開したとき、その号と単行本未収録の分は読んでたんですが、その後展開がこんな事になってたとは度肝を抜かされた。もはや弥勒信仰のような時間スケールで(というか直接参照してるのが弥勒なんでしょうけど)すべての有機生命は解脱し無機物のための世界が訪れる。もはや火の鳥未来編のエピローグのようなんですけどある意味でその先にも行っている。あらゆる宗教や近代の社会通念でもある平等博愛の理念もついぞ無機物はその輪の中に入れてもらったことはなかったのだから。作者のインタビューの中で、仏教系の高校の授業で仏の装飾にされる宝石たちに哀れみを抱いたのが出発点だったみたいなことを言っていた気がするが、とうとうそこを描くに至ったということか。まだ続くようなのが驚きだが、これからどうなるのだろう。
小説
はてしない物語
今年はaudibleに課金するようになり、小説のいくつかはオーディオブックの形式で聞いた。はてしない物語の朗読をしていたのは緒方恵美さん。シンジくんの声でバスチアンの冒険が聞けます。メタファンタジーや無限ループのギミックも楽しかったけれど、何と言ってもアトレーユという無二の親友が、自分にもかつていたような気がして、聞き終わってしばらく呆然としていた。
機龍警察 狼眼殺手
機龍警察のシリーズもaudibleに入っていたので聞いてみた。ただ第三作の暗黒市場までしかなかったので、第四作の未亡旅団と第五作の狼眼殺手は紙の本で。白骨街道は未読です。ここまでのところ狼眼殺手が一番面白かった。イントロからトップギアで最期までその緊張感が持続するという稀有な面白さ。次第に明るみになる構造の複雑さ。シリーズの根幹の設定の開陳。キャラクターのクソデカ感情などあらゆる面で最高。
ただ実際の日本の官僚はこんなに有能でも狡猾でもないだろう。現実の陳腐さが悲しい。映画のベルファストをみた時、自爆条項で描かれていた北アイルランドの混乱状況って結構リアルなんだなと知った。そういった反省もあり、白黒街道を読む前に多少はロヒンギャ危機の勉強をしておこうと思っている。
その他
時間の比較社会学
見田宗介が今年亡くなったのがきっかけで、見田宗介=真木悠介の著書で未読だったこの本を読んだ。比較社会学の本だけど、あくまで手段で、目的は「どうせいつか全てなくなるのになんで生きるの?」といったニヒリズムから開放されたいという個人的な思いから出発している。真木悠介の本の好きなところは個人的なところから出発して社会構造とか大きな話が展開していくところ。
この本の論旨を使って蟲師の『露を吸う群れ』のエピソードの分析ができそうだなと思って少し書いてみたけれど未だに完成していない。
進化倫理学入門
ベンジャミン・クリッツァーさんのブログで紹介されてて気になって読んだ(ただし後半のパートだけ)。進化心理学のよくある俗流理解をヒュームの法則と自然主義的誤謬の論法で捌いていくのがおもしろい。著者の主張は納得感があるけど、その結論からはラディカルな主張も導き出せるなと思い、小説の着想とした。今年のSci-Fireで書いた小説はそんな経緯で書かれている。