ゴールデンカムイ、ストーリーを3パートに分けるならどこで区切る?

いよいよ今週のヤンジャンで完結する金カム。自分は連載初期から10巻くらいまでは追いかけてたんですがそれ以来離れていました。昨年秋の無料開放のときに公開分全話読んだのと、今回の最終話まで無料開放とで、完結まで読めそうです。

ストーリーを3パートに分けるならどこで区切る?

大目標として金塊を手に入れることがあり、ステップを踏んでそれを達成する過程だと考えれば、ざっとこんなところでしょう⇓

  1. ~網走監獄:アシリパさんのお父さん(ウイルク)に会いに行く
  2. 樺太編:暗号を解くための「鍵」を手に入れる
  3. ~ラスト:金塊(+権利書)を手に入れる

わりと素直な分け方だと思います。

ですが無料開放で一気読みしてみて、別の分け方もあるんじゃないかと思いました。連載を追っかけていた初期の印象から、途中で何度かモードチェンジというかギアチェンジがあるように感じたんです。この変化は上で書いた区切りとは多少ずれます。大まかに言うと、”杉元の干し柿のエピソードが現れると作品のモードが変わる”……厳密ではないですが話数で分けるとだいたいこんな感じです。

  1. 序盤(1~100話)
  2. 中盤(101~191話)
  3. 終盤(192話~)

それぞれ見てみましょう。

序盤 手数でアピール

金カムは連載初期から話題の作品で、『このマンガがすごい!2016』オトコ編で2位をとっています。ランキング入選と前後して自分も読み始めたんですが、当時の印象はヒット要素をたくさん盛った漫画だな、という印象でした。当時は状況として進撃の巨人のヒットがあり、一方で孤独のグルメのドラマの成功に影響されてか、グルメものがやたら量産されていました。(この年の『このマンガがすごい!』の1位がダンジョン飯)生き死にを賭けたシビアな闘争あり、一方でアイヌグルメあり、ということで、おもしろいけど雑多に要素が盛り込まれててなんかくどいなと読んでて感じた気がします。シライシもなんかくどいし。

吹き出しに過剰に出てくるシライシ

吹き出しにやたらと念押ししてくるシライシの顔はひとつの表れで、全体的に念押ししてくるようにネタを盛ってくるのがこの作品のテイストになっています。

大きな構想を書き切るには週刊連載は過酷な環境。連載自体もサバイバルしていかなくてはなりませんから、手数勝負でたくさん受けそうな要素を盛り込んだのだろうと思います。ということで、初期は「手数で読者にアピールしていた時期」だと仮定してみます。このモードが一区切りするのが100話の『大雪山』の回だと自分は考えています。

中盤 時間と空間のフレーム

第100話とは連載の中でも区切りとなる話数。たまたまかもしれませんが作者も区切りを考えた可能性はあるでしょう。鶴見ら第七師団から逃げる一行は大雪山悪天候にあい、その場で射止めた鹿の皮にくるまって吹雪をしのぎます。このとき杉元はアシリパさんに戦争に行く前の干し柿の思い出を話します。この干し柿エピソードは杉元とアシリパさんだけが知っている、二人の間だけで共有される秘密になります。いや正確には二人と読者の間で共有される秘密ですね。これを境に読者は、接待される客から旅の仲間になったんだと思います。

二人と読者だけが共有する秘密

一行は網走監獄を経て樺太へと移っていきます。北海道を出てさらに北の地樺太へ。そして旅の目的はアシリパさんの記憶の中にあるだろう暗号を解くための鍵を探すこと。必然父ウイルクの出自を探っていく旅になります。地理的には北へと向かう旅であり、同時に時間を遡ってルーツを探っていくそれです。いわば物語があつかう時間領域と空間領域を広げていき、最外のフレームを確定する工程とも言えるでしょう。うまいことに樺太の地で手に入れる暗号の鍵は、父のルーツ(過去)とアシリパさん(現在)をつなぐミッシングリンクになっています。

中盤のラストに設定したを191話、この回で一行は道を折り返し樺太の北端から北海道へと戻ります。〈鍵〉を手に入れたことで過去と現在は繋がり、空間的には作中最北端に至るわけですね。時間(歴史)と舞台となる空間が示されたことでここを第二の区切りとしました。

中盤のドラマの山場としては、暗号を解く〈鍵〉の奪い合いになります。尾形がアシリパを信頼させ〈鍵〉を騙し取ろうとしますが、それを防ぐのが杉元の干し柿のエピソードになります。

あんこう鍋が食べたい」って言っていたよ

馬脚を出した尾形。嘘と見抜けるのはアシリパさんと読者のみ。ドラマの山場で出される切り札。干し柿の思い出は杉元とアシリパの絆の核心であり、また読者と二人に共犯関係をもたらしてるわけですね。

終盤 旅の終わり

空間のフレームが定まったことでお宝のありかはある程度メタ推理ができました。北海道中を行脚してるわりにはまだ行っていないエリアがありますぞ、というわけです。暗号の答えは提示されるまでわかりませんでしたが、答えを見てなるほどねとなりました。

そして来週とうとう最終回。杉元の生死がきになりますが、どうあれ最後にもういちど干し柿のエピソードが出ると予想しています。干し柿の思い出は杉元とアシリパさん、そして読者が一緒に旅をしてきた証ですから。