小説感想:草薙の剣

 読書会の課題図書なので読みました。

 

時代というものは、チーズや肉の塊のように、切り分けて簡単に区切りが作られるものではない

(p212)

草薙の剣は、日本の戦後を「年代」でなく「世代」で区切って整理し、世代間対立とそれが生み出される構造を描き出そうという試みだ、とひとまず言えると思う。
小説のタイトルである草薙の剣の意味が最後に明かされる。そこで語られるのは、父と子の対立=世代間対立と、子が父の呪縛に立ち向かう武器が必要だということらしい。
6人の主人公=昭生、豊生、常生、夢生、凪生、凡生は、名前からして各世代を象徴する存在であり、匿名的に見える。……しかしはたしてそうだろうか?

描写は広範にわたって目配せが行き届いている。生活様式、家族形態、そのときどきの経済や政治状況(いずれも日本史Aの資料集ぐらいの情報量な感じがするが)。

しかし登場人物の中で積極的に夢を見て時代を切り開いた人間がいただろうか。
全共闘山口百恵松田聖子手塚治虫ガンダムファミコンに、本気で熱中した人間が登場しただろうか。

いや登場はした。しかし彼らはそれぞれのシーン中ではメインで扱われていない、もしくはリアルタイム世代ではない。子供世代や親世代が熱中しているのを見て、あるいはテレビを通して見て、よくわからいだとか関心がわかないとか、そういう描写がとかく多い。どのキャラクターも世代の代表のようでいて、実際は時代を謳歌する(もしくは謳歌した)上の世代や下の世代への距離感によって書かれている。

誰も悪くない。父も。母も。それなのにどうして自分は苦しいのだろう? 「かつて若者だった大人は、根拠のない夢を変わらずに見ているしかし、当の若者には絶望しかない」と、誰かが言っていた。

(p346)

しかし夢を見ている大人はついぞ出てこず、誰かの夢に付き合わされる様子ばかりが書かれているような気がする。しかしそれでは片手落ちではないか。

最後の草薙の剣のくだりにはこうも書かれている。

……ミコトの授けられた剣は「草薙の剣」剣を得ることになるが、それより更に重要な火打石にはいかなる名前もない。
草を薙ぎ払うだけで、押し寄せる熱と炎と白煙を押し止めることが出来たのか? ヤマトヒメのミコトは黙って、押し寄せる敵迎え撃つ術を教えたのだ。大太刀を振るって敵をかわすより、迎え撃つことの大事を。

(p345) 

この小説は火打石たりえるだろうか?

草薙の剣

草薙の剣