汝、コンピューターの夢

SFに求めるもの、というかおもしろいと感じる物語の必要条件はある程度箇条書きできるのだけれど、

ジョン・ヴァーリィの小説群は、そのほとんどを一つの作品の中に含んでいるように思う。

 

・センスオブワンダーに溢れる魅力的な設定(あらすじくらいの解像度にしても読んでみたくなる魅力を持っている)

・絵に描きたくなるような光景(印象的なシーンを持っていること)

・物語構成(読者を結末へ導く牽引力)

・切ない人間ドラマ(エモーション)

・SF設定ならではのテーマ その設定でこそ浮かび上がる人間や社会の一面

 

作者は元ヒッピーらしく、テクノロジーによって人間は社会通念から解放され自由を謳歌しているように見えるところにそういった出自が反映されている気がする。

たやすく体を乗り換え性別や年齢を入れ替えていく。しかしストーリーの中心にあるのは、そういった自由と引き換えにもたらされる不安や孤独だ。入れ替え可能であるがゆえに性別はもはやアイディンティティになりえない。性別以外のあらゆるものも同様だ。自分のもっていた属性が入れ替え可能になったとき、他人と何をとっかかりに関係をつくれるだろう……そういった問いかけがされる。

 

ハ世界を通底しているのは、故郷を失った悲しみだ。故郷を失い、アイディンティティの寄るべを失い、それでも人は誰かとのつながりを求めてあがいている。

 

 

個別の作品については読み返したときにちゃんとしたい。

 

■ピクニック・オン・ニアサイ

デビュー作とのことだけど、なんともビビッド。

1週間前までどつきあってたような友達が突然女になって言い寄られてドギマギするあたりおもしろいんだけど、

そのあとなんだかんだでバンバンセックスしてるのがなおさら可笑しい。

 

性自認の豊かな混乱があり、故郷を失った悲しみがデビュー作から通底している。

 

■逆行の夏

ジュブナイル感が強い。逆行する太陽、水銀の泉の光景の美しさ。

家族関係への違和感は思春期におこる普遍的な感情でもあるだろうけど、<チェンジ>の設定が

独特の喪失と成長を際立たせる。

 

ブラックホール通過

遭難モノ

 

■鉢の底

これまた情景がきれい

 

カンザスの幽霊

バックアップから復元された自分が何度も暗殺される。今度こそ殺されないぞと警戒しながら犯人を捜すミステリ。

その真相は、人格のバックアップがもたらす実存的な問題に通じる。このSF設定でこそ語れるテーマ。

また未来の独自の芸術のアイディアがおもしろい。

クライマックス、機械に宿るユーモアが未来を明るく照らす。

 

■汝、コンピューターの夢

コンピュータに意識が閉じ込められる話、だった気がする

 

■歌えや踊れ

音楽SFでありバディもの